蝉がしんでいた。

 

昼下がりの、天気がいい日だった。

 

悲しさより虚しさがあった。

その虚しさが、蝉の死にたいするものではないことに、より虚しさを感じた。

その虚しさよりも、思うことがあった。

 

 

彼とは、朝に出会っていた。

ひっくり返っていたから、もうご臨終なのかなと思い、近寄った。

 

迂闊だった。

 

彼は急に動き出した。

 

バチバチバチッ

ビクッ

 

思考が停止し、冷や汗をかきながら軽く殺意が湧いた。

しかし、そんなことでいらだつのは大人げないと思い、彼の横を通り過ぎた。

 

 

まさか帰り道で、あのような状態の彼とまた出会うとは思ってもみなかった。

 

 

回想する。

同じ道を帰っている途中、あの不届きな輩はどこかと多少気にして歩いていた。

別に驚かされたことを根に持っているわけではない。断じて。

 

正直、もういないだろうと思っていた。

しかし。

 

変わり果てた姿の彼が、目に留まった。

 

そう、彼は踏みつぶされていた。

全身がぺちゃんこになっていた。

絶対に、なんだか煎餅みたいだとか思ったりしていない。

 

私は心の中で追悼した。

人を驚かせた罰だと正直思わなくもなかった。

だが、天に召されてほしいとまでは思っていなかった。

 

悲しかった。

彼の死に心が動かない自分が。

 

そんな自分に失望する自分が、とても虚しかった。

 

 

しかし、こんなことを思っても仕方がない。

彼はもういない。

そんなに思い入れはなかった。まあ、初対面だったから。

それでも、煎餅みたいな最期はなんだかなと思う。

 

いや待て。

あいつ、一人勝ちしてないか。

 

私を驚かせて、手の届かないところにいってない?

あれっ、してやられたのはもしかしてこっち…?

 

 

…来年の夏は、絶対に驚いてやらない。

彼とはもう会えない。

でも、蝉生を立派に全うした彼を、憐れむのは失礼だと思った。

 

 

あと、驚かせた件については許さん。